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経済評論家 原田淳也
本末転倒の「たばこ増税」論

2009年度の税制抜本改革に向けて、自民党税制調査会の議論がスタートした。最大の焦点は社会保障財源確保のための消費税「増税」の行方。しかし、与党内には来る総選挙への政治的思惑から消費税増税には慎重論が根強い。そこでがぜん注目され始めたのが「たばこ税」の大幅増税論。与野党を超えた議員連盟が発足し、「1箱1000円」を視野に入れた大増税への期待が強まっている。とはいえ、取りやすい「たばこ税」ならOKというのは、きわめてずさんな本末転倒の増税論ではないのか。ここは大人の議論が必要だ。

「たばこ増税」論は、中川秀直自民党前幹事長ら、消費税増税に慎重な「成長重視」派の与野党議員が提唱。「欧米に比べたばこの価格は安過ぎる」として、たばこ税を大幅に引き上げて不足する社会保障財源に充てようという狙いのようだ。09年度の基礎年金の国庫負担増(2・3兆円)すらまだ捻出(ねんしゅつ)のめどが立たない状況では、「たばこ増税」は消費税増税までのつなぎ措置としてかなり有力視されるだろう。

しかし、ここはよく考える必要がある。年金などの社会保障財源については、基本的に政府、企業、家計が公平に負担し合うのが原則だ。たばこ喫煙者という一部の担税者から過酷な税を取り立てそれを税源にという論法は、いかにも筋の悪い増税論だ。社会保障の「安定的な財源」としては、国民が広く薄く負担し合う消費税の増税が望ましいが、選挙に不利だから消費税論議は先送りして、取りやすいところから取るというのでは、まともな税制改革とは言えまい。

また、たばこは「社会的害悪」だからもっと増税をという感情的な「いじめの論理」を、中立公平であるべき税制に持ち込むのもおかしい。たばこ税の担税率はすでに60%(1箱300円当たり175円)と高い。さらに税負担を引き上げれば、事実上の禁止税率となりかねない。

たばこ税収は年間約2・2兆円。消費税率1%分に相当する。仮にたばこの価格を1000円(税金875円)に引き上げれば、単純計算で税収増は8・8兆円となる。しかし、値上げによる買い控えや禁煙者の増大を考えれば、実際の税収はほとんど増えないだろう。過去のたばこ税引き上げ時も、税収増の期待は見事に裏切られている。

たばこ税や酒税などの特定の物品税はこれまで、税制改革の帳尻合わせのような形で「増税」されてきた歴史がある。抜本的な税制改革ではいわば端役にすぎないが、今回は「主役」級の座に躍り出てきた。このいびつな姿はいったい何を意味するのか。

抜本的な税制改革は小泉、安倍政権以来の懸案だが、今回も消費税について「決断する時期」と明言したはずの首相がすぐに後退するなど、抜本改革の機運は早くもしぼみつつある。膨らむ社会保障費の財源探しにばかり焦点が当たり、場当たり的な弥縫(びほう)策の「たばこ増税」が登場するのは、この国のまさに「政策の貧困」を象徴しているようだ。

「1000円」たばこが仮に実現すれば、増税の根拠や目的、税収効果、税の負担原則などに照らして、きわめて異例の増税となるだろう。国家財政の財源不足、それも公平であるべき社会保障財源の補てんを、ごく一部の担税者にしわ寄せするのは、民主主義の否定にもつながる。今後の税制論議は、法治国家における税制のあり方からまず議論してほしい。


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