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経済評論家 舟泊 良章
上滑りする政府の温暖化対策
産業界からは批判的な視線
2050年までに二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの国内排出量を「現状より60〜80%削減」するとの目標設定を政府が検討している。7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の議長国として高い目標を掲げ、13年以降の国際協定「ポスト京都議定書」の枠組みづくりをリードするのが狙いだが、政府部内の議論は上滑りしている感が否めない。また産業界は「非現実的だ」(新日本製鉄首脳)と批判。国として温暖化対策のイニシアティブを発揮できるかどうか、心もとないとしか言えないのが現状だ。

安倍晋三前首相は昨年5月、世界全体のCO2排出量を50年までに半減させる「美しい星50」構想を発表した。これを継承する形で福田首相は国内の排出削減目標を全世界より高く設定しようというわけだが、実現に向けた方策は未知数のまま。厳しい排出規制が課された場合には、主要な製造業が海外にすべて移転するといった事態を懸念する向きさえある。

加えて、日本がこうした目標を設定し、約束を守ったとしても、それだけで地球温暖化が止まるものではない。

現在の京都議定書は実質的に日本と欧州しか参加しておらず、経済発展に伴ってCO2排出量が急拡大している中国やインドは野放しの状態だ。世界の排出量の3割しかカバーできていない今の枠組みが「ポスト京都議定書」でも維持されたのでは、排出量が爆発的に増えてしまうのは自明の理だ。

発展途上国の排出削減に向けて日本の経済界は、鉄鋼や電力など産業分野ごとに非効率な工場への技術移転を通じてCO2排出量削減を進める「セクター別アプローチ」という手法の採用を訴えている。途上国に既存の技術を移転することで大幅なCO2削減が可能になるため、日本政府も各国に理解を求めている。

しかし、セクター別アプローチは、結果的に途上国企業に削減義務を負わせることになる。先進国が政府開発援助(ODA)などを通じて資金援助をすれば、受け入れられるというのが産業界の言い分だが、途上国は「先進各国が排出量の削減でより大きな責任を負うべきだ」との立場で、不信感さえ抱いている。

こうした姿勢を転換させ、セクター別アプローチを通じて途上国のCO2削減を実現したとしても、日本など先進国は一段の排出削減を自らに課すのが不可欠だ。

この責務を果たす方策は、一つしかない。

それは、革新的な技術の開発だ。革新的だからこそ実現の見通しは立てられないし、産業界は約束ができないのだが、暴力的とも言える手法で政治的にハッパをかけることはできる。
 米国は1970年に自動車からでる排気ガスに含まれる一酸化炭素や炭化水素を10分の1に削減することを求めた「マスキー法」を導入した。「実現不可能だ」としてゼネラルモータースなどビッグ3が猛反発したため74年に廃案になったが、ホンダはCVCCエンジンを開発して規制値をクリアし、世界をあっと言わせた。

今では、すべての大手自動車会社がマスキー法が定めた排ガス規制をクリアしている。

不可能が可能になったのだ。

こうした技術的なブレークスルーを可能にする劇薬として「福田ビジョン」が構想されているのかも知れない。しかし、全ての企業が逃れられない国際的な枠組みの中に技術革新を位置づけることができるかどうか。そうした枠組みがないまま、サミットに向けたスタンドプレーとして「日本のCO2排出量を60〜80%削減する」と約束するとしたら、それは製造業の途上国への全面的な移転と日本経済の衰退を招く愚策でしかない。



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