小澤啓一建築研究所 代表取締役・小澤啓一さん

「機能設計」、バイオ専門の建築士

「圧力をかけられて設計することなど、想像もできない」と耐震偽装事件について驚きを隠せない小澤さん
耐震強度偽装事件で一級建築士の信用が地に墜ちた。どこに行っても話題の中心…だと、三名の一級建築士で構成される株式会社小澤啓一建築研究所の代表取締役・小澤啓一(1965年生まれ)がスタッフとともに嘆く。「医薬品・食品・バイオに特化した、専門性の高い我々の建築事務所では、圧力をかけられて設計することなど、想像もできない」という。

国内最大手のエンジニアリング会社『日揮』のライフサイエンス事業部に、小澤は十三年間、籍を置いた。そして、医薬品、食品会社の設計・建設業務をこなしてきた。建物が機械ともいえる、複雑な機能を持つ特殊な建築物を建ててきたのだ。この分野では、我が国でもエンジニアリング会社のプロジェクト・マネージャーが、複雑に入り組んだ要素技術を取りまとめる。経済設計ではなく、機能設計と呼ばれるユニークな世界である。

そんな専門性の高い小澤の設計業務が、どうして、土浦のハイテク・ベンチャー企業として立ち上がったのか。会社が設立されるまでのショートストーリーをたどった。小澤は、都内に家庭を持ち、自身は日揮の横浜本社に通い、司法書士の妻は実家土浦の田山司法書士事務所へと、全く正反対の方向に通勤していた。

「ある日突然、思う所があって退職を申し出たら、翌日、妻から妊娠を知らされました。それなら土浦の妻の実家近くに行き、設計をしながら子育ては自分が担当する」と、三年前、引っ越しを決断。

「もし、先に妻の妊娠が発覚していたら、養育費を稼ぎ出すためにも会社を辞めることはできなかった」と、そのカンに頼った人生の偶然を振り返る。

子育てをしながら、土浦の借家の二階をアトリエにして、とりあえず個人事業で始めた。住宅設計などの小さな仕事をこなす日々が続いた。「自分の人生は、このままのスローペースで行くのかな…」と思っていた。しかし、「久し振りに電話した知り合いから、専門的なバイオ分野の設計の仕事が入った。そして、今年始めには、一人ではできない程の規模に急拡大してきた」。企業向けの業務となるので、本格的な起業を考え始めたのである。

小澤の妻が経営する田山司法書士事務所は、妻の父親が土浦の裁判所OBとして土浦法務局近くで始めたものだ。空いていた二階のスペースを、小澤の建築事務所のオフィスに改装。パソコンを運び込み、ガラス屋で切ってもらって作った巨大な机を応接に置いた。今、そのガラス机越しに、インタビューしているのである。

十三年間のサラリーマン時代の実績か、医薬品・食品の中規模企業から、次々に注文が舞い込んでいるという。バイオ分野に特化した設計・エンジニアリング会社が少ないのだ。次は、「医薬品・食品・バイオ分野で、ローコスト・ラボを規格化、標準化して、バイオ・ベンチャー向けに提案したい。遺伝子組み換えもできるレベルの施設を安価に提供し、それによって、つくば発のベンチャーを促進したい」のだ。

「辞めてどうするつもりだ」と慰留してくれた日揮時代の上司も、今では「初めてのケースなので、会社としても成功してもらいたい」と言ってくれている。忙しくなり、「子育てへの参加度合いが減ってしまった」と妻からは責められている。夕食を食べ、子供を風呂に入れ、再びオフィスに戻ってパソコン上で図面を引く。友達も全くいない中、落下傘で土浦にやってきた小澤だが、TX開業で、首都圏の仲間と仕事がしやすくなった。

「嫌なことがあって、初めて良いことがある。平坦な日々ではなく、シンドイことが、あればこそ感じるのが幸せ…」。己のビジネスのカンを信じたい。そして、自分の専門性で社会に関わりたい。「何らかのカタチでつくばプロジェクトに関わり、地域に貢献して行きたい。それができないようなら、自分の仕事も成功できるとは思えない」と、発想はシンプルだが、実に力強い。(花山 亘 つくばベンチャー協会事務局長、NPOつむぎつくば理事、敬称略)

【会社概要】土浦市下高津1の19の36。電話029・835・9532。ファクス029・823・3993。2005年2月創業。資本金・1000万円。医薬品・食品・ライフサイエンス分野の施設設計を中核業務にし、建築の設計管理業務、都市計画に関するコンサルティング業務、プロジェクトマネッジメント業務、コンストラクションマネッジメント業務等。http://www.shihou-arc.com/

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