SCIVAX 代表取締役・前野拓道さん

社会起業家の「夢とソロバン」

見事と拍手がくるような、「社会起業家」的会社を目指す前野さん
物産の人事部は悔しがっているんじゃないですか?「ヒト、いっぱいいますから…」と、SCIVAX株式会社・代表取締役社長・前野拓道(一九六二年生まれ)は、軽く受け流した。三井物産時代、ナノテク事業室長として、『つくばナノテクパーク』を立ち上げ、二年余り寝食を忘れて、未踏分野に挑んだ。やっと軌道に乗り始めたところで、突然、本社へ人事異動。

三カ月間は、どうするか悩んだ。しかし、同事業室の仲間達が、この成長分野から前野が去って行く事を許さなかった。メンバー三人で辞表を出し、退職金を積み上げて会社を設立。三井の看板も資金も人材も無くなった。「色が無くなったと言うか、三井の利益を第一に考えなくてよくなった」のだ。ただ、「上がいなくなって良かったナァ」と、物産の前社長には、逆に励まされたという。

早速、『産総研ビジネスセンター』など、つくば地区に二カ所の開発拠点を作った。その切り盛りをするナノインプリント担当取締役の楠浦崇央は、前野に惚れ込んで、大阪の大手メーカーを辞めたところで、この人事劇に遭遇。「前野がいない会社に入っても仕方ないし…」と、一年前のサイヴァックス社起業時を振り返る。

前野のビジョンは明確だった。「日本は、モノ作りの国ですから、異分野の技術がバラバラにあるものを、得意技を結集しながら、形にしていく。前人未踏の会社にする」と。国の研究所や大学は、『知的財産』を山程持っているが、研究者自身は、マーケットとのコミュニケーションが苦手。「異分野が繋がって新しいモノを作っていくという方法論は、有るようで無いんですよ」と、ワールドワイドな商社マンの視点で、ニッチを見抜く。

ナノテクノロジーは、分子レベルの世界。物質の原点では、全ての分野が、垣根を超えて融合してくる。インターディシプリナリーと言う標語を唱えなくとも、アプローチは自動的に学際性を帯びてくる。総合商社が育んだ多様性を武器に、研究機関や大学の『知財戦略』を策定するコンサル業務も、前野たちの重要な収入源。

一方、五千万円のナノインプリント装置を産総研と共同で完成させ、早くも受注ベースで三台売った。半導体の回路露光や光学素子、バイオチップの量産化に使える。『理論』を『形』にすることは、研究開発部門を持たない商社育ちの前野が、最もやってみたかったことだ。ソフトからハードまで、問題解決のためには、何でもやって見せる。

まず、最初に問題提起がある。例えば、健康とは一体何だろう。ある人は医者になる。ある人は健康食品を作る。「僕は、病気にならないようにチェックするメカニズム、診断ツールを作りたい。唾液や髪の毛で、病気になる前に、簡単に健康診断をできれば最高」だ。

前野は、「人がいなければ、知恵なんか沸かない!」と主張する。『脳のなかの幽霊』(角川書店)で有名なインドの脳神経学者V・S・ラマチャンドランを引き合いに出して「左手のまひした人の治療において、ラマチャンドラン博士は、箱の真中に鏡を置いただけのセットを創った。患者は、鏡に映る右手の動きを見て、あたかも左手が動いているような錯覚をおぼえる。すると、脳のシナップスがつながってきて治療につながった。まさに魔法の装置を発明した。高価な設備ではなくて、創意工夫をする知恵が大事」だと考える。

いろんなベンチャーがあるが、「見事と拍手がくるような」ビジネスの力で世直しをする社会起業家的会社を目指す。「夢とソロバン両方重要だが、単に金儲けと言うのでは力が出ないんですよ。社会に貢献できる誇りある仕事なら、いかに困難でハードな仕事でも、知恵やエネルギーが出てくる」。リストラの世で、設立一年目にして社員二十三人。三年後には、百人体制を目指すという。前野の磁力が、人をひき付けて離さない。(花山亘 つくばベンチャー協会事務局長、NPOつむぎつくば理事、敬称略)

【会社概要】東京都中央区東日本橋3の4の10アクロポリス21ビル。電話03・5649・3583。研究所・つくば市千現2の1の6 つくば創業支援センターCB―2。2004年2月創業。資本金2億5000万円。ナノテクノロジー機器開発、技術経営・事業化サポート、知的財産戦略サービス、研究開発連携マネージメント受託。http://www.scivax.com/

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